今週のお題「名作」 「好きな作品」と「名作」の違いは何だろう。 特別に思い入れがあるわけではないけど、ついつい見たり聞いたりする作品もあれば、一回きりしか出会っていないのに、今なお心に深く刺さる作品もある。 人生の背骨となるような、悩んだり苦…
バスで、運転手の後ろに座っていた。 停留所に着くと、学生服の男の子が「ありがとうございました」と降りていった。 バスは発進した。 しばらくしてまた停留所に着くと、若いサラリーマンが「ありがとうございました」と降りていった。 バスは発進した。 次…
自分の書きたいことと 人が読みたいと思うこと できればこの二つを折り紙の角と角を合わせるように ぴたりと重ねたいのだけれど そうそううまくはいかない かといって 当たり障りのないことを 耳障りのよいことだけを 書きたいとは思わない 書くとは 表現す…
夜になると蛙が鳴くようになった。 「やあ、こんばんは」 「やあやあ、最近どうだい」 「さっぱりですな。お先真っ暗だよ」 「どこもそんな感じさね。おや、上を見てごらん」 「上に何があるってんだい」 「星だね。今日はよく見えるよ」 「星か。星はいいね…
仕事でもプライベートでも、画面を見ない日はない。 液晶から飛び込んでくる強烈な光に目と脳がやられ、本を読もうとしても目がしょぼしょぼしたり頭がボーっとしたりする。 いわゆるブルーライトというやつだが、これがなかなかやっかいで、目を疲れさせた…
今週のお題「お弁当」 春のうららに誘われて散歩に出た。 仕事は昼休みだった。 左手に川を見ながら少し歩くと、ともすれば見落としてしまいそうな小さな弁当屋が現れる。 小さなショーケースには自家製のポテトサラダや弁当が慎ましやかに並んでいる。 サン…
今日もおつかれさま。 今日は吉野弘の『夕焼け』を贈ります。 いつものことだが 電車は満員だった。 そして いつものことだが 若者と娘が腰をおろし としよりが立っていた。 うつむいていた娘が立って としよりに席をゆずった。 そそくさととしよりが坐った…
今週のお題「外でしたいこと」 気だるげな春のうららに誘われて 体一つと本とコーヒー これさえあればそれで充分 ランキング参加中Think<書くことは考えること> ランキング参加中短文エッセイ
「自然に触れる」「自然に親しむ」という表現がどうにも好きになれません。 「触れる」とか「親しむ」というと、どうにも、自然と人間が対等のような気がするからです。 「自然を大切にしよう」とか「自然を守ろう」というのもおかしな話で、自然は人間に守…
まだかまだかと気を揉むうちに花盛りを逃してしまい、葉桜ばかりとなった。 盛りの頃には桜を見上げる人をよく見かけたものだが、今では皆うつむいて行き過ぎている。 人の心変わりの早さを感じと同時に、うさぎも見上げることがなかったことに気づいた。 葉…
今週のお題「外でしたいこと」 人気のない浜辺に腰を下ろし 寄せては返す白波を見るともなしに眺め 耳は遠く雲雀の声を聞き 風はうたた寝を誘い 潮にわずかに交じるは花の匂い そうして、気づけば一日が終わっている。 そんな日を過ごしたい。 ランキング参…
足だけ見えるカフェがある。 正確には、通りに面した席の、ブラインドが降りて、こちらの視界のほとんどを覆ってしまうため、自然と通りに目が向いてしまい、通りを行く腰から下がちょうど見える、そんなカフェである。 せかせかした足、のんびりとした足、…
警察署の 石壁に ひとつ咲いた 赤い花 こんな場所にも 咲くのかと 行き過ぎてなお 目に浮かぶ ランキング参加中Think<書くことは考えること> ランキング参加中短文エッセイ
今週のお題「きれいにしたい場所」 朝いちばんにトイレの床と便器を拭く。 汚れているからではなく 汚れないように。 今日という一日が 今日を過ごす私が 汚れないように。 ランキング参加中ライフスタイル ランキング参加中短文エッセイ
目を閉じ、眠りに落ちるまでの束の間。 「思考」と呼ばれる前の茫としたナニか。 が、頭を駆け巡る。 水を得た魚のように、陽に誘われた虫のように、ゆらゆらふらふら ときに激しく、ときに静かに。 死んだように動かないかと思えば、今命を吹き込まれたよう…
今日もおつかれさま。 そんな私にブラウニングの『春の朝(あした)』(上田敏訳)を贈ります。 時は春、 日は朝、 朝は七時、 片岡に露みちて、 揚雲雀なのりいで、 蝸牛枝に這い、 神、そらに知ろしめす。 すべて世は事も無し。 ( )の読みは筆者がつけて…
今日もおつかれさま。 今日は石垣りんの『空をかついで』を贈ります。 肩は 首の付け根から なだらかにのびて。 肩は 地平線のように つながって。 人はみんなで 空をかついで きのうからきょうへと。 子どもよ おまえのその肩に おとなたちは きょうからあ…
今日もおつかれさま。 今日は吉野弘の『生命は』を贈ります。 生命は 自分自身だけでは完結できないように つくられているらしい 花も めしべとおしべが揃っているだけでは 不充分で 虫や風が訪れて めしべとおしべを仲立ちする 生命は その中に欠如を抱き …
今日も一日おつかれさま。 今日の私に贈る詩は新川和江の『子どもが笑うと……』です。 ちいさな子どもが クスッと笑うと 草の実が ぱちん! とはじけます クスクスッと笑うと 木の葉がゆれて ひかりが こぼれます クスクスクスッと笑うと もう誰だって いっし…
明日から新年度。 新しい学校、学年。初めての職場。新しい環境。「新」や「初」とつくと何か動きだしそうな、わくわく感が伴う。 プロスポーツ選手に求められるのは、調子のいい時に100%を発揮できる力よりも、いつどんな時でも60%を発揮できる力だ、とい…
「食む」と書いて「はむ」と読むことがある。 小動物がせかせかと口を動かす様子が思い浮かぶので気に入っている。 響きがいい。「は」も「む」も柔らかく、丸っこい音がする。文字だとくるんと一回転している。「くう」や「かむ」ではだめだ。歯でガリリと…
桜で一句詠みたいものだけどどうにも思いつかない。 表現するって何とも難しいものだな。 さまざまの 事思ひ出す さくらかな 松尾芭蕉 限られた音数で場面を、心情を描くのが俳句の楽しみ。 言いたいことのあれこれを削って省いて捨てる。そうして研いで磨い…
日本語は文字そのものに「美」を見出す不思議な言語。 バラ、ばら、薔薇、同じ音でも表現は幾通り。 不思議なことに、表現を変えると呼び起こされるイメージも変わる。 どの表現を使うかには、その人の価値観が反映している。美意識と言ってもいいかもしれな…
連日、就寝時刻が日付を超えることがあり、頭が茫としていた。 頭が鈍ると判断が鈍る。判断が鈍ると些細な言動にボロが出る。そこからさらに大きなボロにつながり、ボロボロと崩れていく。 作るは難しく、壊すは易いものだ。 睡眠不足が続くと認知能力が下が…
噛みごたえのある本と出会った。 耳を聾する轟音とともに、すべてが始まったのは、このときだった。 母の日の翌日、海水浴に行き、女と映画を楽しみ、一晩をともにし、人を撃ち殺し、動機について「太陽のせい」と答える。 端から見ると狂っているようにしか…
魚を焼いて食べる。 塩気と脂を緑茶で押し流す。 食道を伝って胃へ広がっていく。 三月の朝日が差し込んでいる。 どうしようもなく春だ。 ランキング参加中短文エッセイ ランキング参加中ライフスタイル
人はなぜことばに救われたり、支えられたりするのだろう。 何気ない一言だったり、小説の一節だったりに心を動かされるのはなぜだろう。 国語の教科書にも載っている谷川俊太郎の『生きる』という詩がある。教科書のいちばんはじめに載っていて、四月の最初…
AIに小説は書けるだろうか。 AIに出力させた文章(というよりは文字の羅列)は、小説と呼べるだろうか。 a.r10.to ランキング参加中読書 ランキング参加中Think<書くことは考えること>
はじめに あらすじ 信念 サーカスの座長 おわりに はじめに 私たちは日に何百、何千という情報に触れる。流行のスイーツに芸能人のゴシップ、政治や経済の様子など、情報に触れない日はない。それと同時に、見聞きしたことを伝えもする。SNSを開けば新し…
園児たちの寝息を聞きながら、老いへの恐怖に一人震えていた。 保育園の頃の話だ。広間で雑魚寝しているときにふっと不安が湧いた。 寝ているうちに家族が死んでしまったらどうしよう。 一度抱いた不安は消えるどころか、とりとめもなく広がっていく。 この…