今週のお題「お弁当」
春のうららに誘われて散歩に出た。
仕事は昼休みだった。
左手に川を見ながら少し歩くと、ともすれば見落としてしまいそうな小さな弁当屋が現れる。
小さなショーケースには自家製のポテトサラダや弁当が慎ましやかに並んでいる。
サンドイッチを買って店を出る。
右手に川を見ながら戻る途中に木陰の下に低い石垣があり、桜の樹が柔らかく日ざしを受けとめている。
石垣に腰を下ろすと、ちょうど左から右へと流れる川を目の前に眺める形となる。
封を開け、サンドイッチを取り出す。
パンは表面を軽く焼いてあり、軽やかな硬さを感じる。
身体の熱気を風が優しくさらっていく。
一口かじる。パリリと音を立て、パンがほぐれる。
コーヒーをすする。
またかじり、すする。
ベビーカーを押す母親がゆっくりと横切る。
かじる。
すする。
川向こうを原付が行き過ぎる。
かじる。
すする。
かじる。
風に乗って子どもの声が届いてくる。
かじる。
すする。
食べ終えた後もしばらく見るともなしに川を見ていた。
たぶん、豊かさとは、高価さとか豪勢さとは関係がない。
川の流れをただ見ること。
風のそよぎをただ感じること。
パンの味をただ味わうこと。
そんな簡単な、だけど難しいこと。