ふとした瞬間に思わず見入ってしまうことがあります。顔にかかった髪をかき上げたり、鏡の前でネクタイを締めたりする姿に色気を感じるのには、手が重要な役割を果たしています。心情を表すときに靴ひもを結んだり、煙草に火を点けたりするのも、手に焦点が当てられています。
手にはその人らしさというか、個性が色濃く表れるように思います。
本にまつわる手の在り方にも、まさしくその人らしさが滲み出ます。
本を持つ手、ページを繰る手、頬杖をついたり、髪をいじったりする手。本人も気づいていないであろう手が持つ表情に、ついつい見とれてしまうのです。本を想い浮かべるとき、同時に手も想起してしまうものです。そこには一種の人間らしさ、温もりがありました。
それが今では、どこを見てもスマホを触る手ばかりで、手が持つ表情を感じ取ることが少なくなりました。
スマホを触る手は、どこまでも味気なく、冷たい手です。人の持つ味わい深さに蓋をしてしまう手です。
そういううさぎも、ついついスマホを触ってしまいます。そして、自分の手の表情のなさに驚かされます。
私たちはもっと、手が見せてくれる人間らしさ、温もりに目を向けなければならないのではないか。そんなことを考えます。