本読むうさぎ

生きるために、考える

物を贈るということ

自分に自信がないので、誰かにプレゼントするときもうじうじ考え込んでしまう。

 

ちょっとしたお礼や記念日にプレゼントを贈る。物で気持ちを伝えるというのが苦手。

「こんなの感謝の気持ちと商売を結びつけたマーケティング戦略じゃないか!」といつも心の中で毒づいている。

 

なぜプレゼントを贈るのにうじうじするのか。中学3年生にさかのぼる。修学旅行で鹿児島を訪れ、班ごとに分かれて市内を散策していた。

4,5人の班でまとまって行動しながら、鹿児島の街並みを見たり、食べ物を食べたりした。

白くまを食べたり、お土産を買ったりするメンバーを横目に、うさぎはめちゃくちゃ悩んでいた。

 

プレゼントに何を贈ろうか。という問題だ。

当時付き合っていた彼女へのサプライズにプレゼントを贈ろうと、店を渡り歩いてはあれでもないこれでもないと悩んでいた。

予算が千円程度しかないから、それに収まる物。せっかく県外に来ているのだから、何か特別な物。旅行中なので、形が崩れたり壊れたりしない物。目立ちすぎず、地味すぎない物。諸々の条件を満たし、なおかつ相手が喜ぶ物を選ばなければならない。キーホルダー、定番すぎる。お菓子、家族じゃないんだから。ううむ。

あれこれ悩みつつお土産屋さんを覗いていたところ、ふとある物に目を留めた。

これは、いいんじゃないか。すべての条件を満たすし、実用的だし。

ああ、これを受け取って「ありがとう」と笑う彼女が目に浮かぶようだ。

暗く長いトンネルをひたすら歩いているときにふと光が差したら、誰でも光の方に向かうだろう。霧が晴れるようにすべての迷いは消え、天啓に導かれるように流れるようにそれを買った。

そこが幸福のピークだった。

 

修学旅行から帰り、普段の生活に戻りかけていた頃、プレゼントを渡した。

まさかもらえるとは思っていなかった彼女は満面の笑みで包みを開けていく。

ここまではよかった。

 

包みから出てきたのはハンカチだった。鹿児島のご当地デザインが刺繍されたハンカチ。

 

そのときの彼女の表情を思い返しては今でも身もだえする。

 

歯を見せたまま固まった口、手に持っている物を精いっぱい処理しようとする目、期待外れにを隠し切れない頬。ありがたいと思っていないありがとう。

 

ネタであげたのなら笑い話で終わるのだが、精いっぱい相手のことを考えたうえで選んだのがハンカチだから報われない。中学生でハンカチを貰ってもなあ。しかも修学旅行のプレゼントで。

 

誰も悪くない。誰も悪くないからこそ一層みじめな気持ちになった。自分の絶望的なセンスでガラスの自尊心にひびが入り、彼女のなんとも言えない顔で粉々に打ち砕かれた。

 

この経験は時とともに深く根を張り、広げ、自信をがんじがらめに縛りあげることとなった。

「自分にセンスはなく、相手を喜ばせることはできない。」

 

ひねくれた考えだとは自分でもわかっているが、一度身に染みたものはなかなか落ちない。プレゼントを選ぶたび、この考えに殴られながら探している。

 

クリスマス。

センスを問いただされる恐怖のイベントが近づいている。

鬼の跫音よりも恐ろしく、ジングルベルが響いている。