本読むうさぎ

生きるために、考える

うさぎの本棚 『BUTTER』柚木麻子

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男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ――。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。(新潮社より)

 

多様性という言葉をよく見聞きします。それぞれの違いを認め、尊重し合うことが大切だといたるところで叫ばれます。女性の社会進出、同性婚、貧困や教育の格差……よりよい社会を目指すために、解決しなければならない課題は枚挙にいとまがありません。

 

課題は山積みだけど対応は遅々として進みません。その原因の一つに、社会に深く根付く病気のような価値観があります。

 

男性たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された一人の女。注目を集めたのは事件の特異性よりも彼女の容姿でした。若くも美しくもなく、なにより太っている。そのことに男性は侮蔑を、女性は嫌悪を覚えます。

週刊誌記者の主人公は彼女の最大の特徴として「自分で自分を許している」ことを挙げます。社会が押しつける女性像、男性が夢見る女性像、女性が憧れる女性像……あらゆる「女性はこうあるべきだ」という価値観がはびこる中、彼女は自分が食べたいものを食べ、生きたいように生きてきました。

 

「どうしても許せないものが二つだけある。フェミニストとマーガリンです」

そう語る彼女はどのように生きてきたのか、なぜそのような考えを持つようになったのか、取材を進めるうちに主人公は誰もが抱えているが、誰も打ち明けない"生きづらさ"と向き合うことになります。

 

"生きづらさ"について、次のセリフが心に残っています。

努力して出した結果よりも努力しているかがその人の質になる。努力ってことと、辛いってことが混同されてきて、辛い人が一番偉い世の中になっちゃったりして。

好きなことを我慢して打ち込むことが美談として語られ、うまく行かないことは努力が足りていないからだとなじられる。努力=辛い=偉いという式が成り立つ社会。

 

何となく感じているけど、うまく言葉にできないモヤモヤしたものを言語化してくれているのでスッキリします。

”生きづらさ”とどう向き合うか。誰もが抱えるからこそ、一人ひとりが考え抜かなくてはならない問いではないでしょうか。