今日もおつかれさま。
今日は中野重治の『歌』を贈ります。
おまえは歌うな
おまえは赤ままの花やとんぼの羽を歌うな
風のささやきや女の髪の毛の匂いを歌うな
すべてのひよわなもの
すべての風情を擯斥(ひんせき)せよ
もつぱら正直のところを
腹の足しになるところを
胸さきを突きあげてくるぎりぎりのところを歌え
たたかれることによって弾(は)ねかえる歌を
恥辱の底から勇気を汲みとる歌を
それらの歌々を
咽喉をふくらまして厳しい韻律に歌いあげよ
それらの歌々を
行く行く人びとの胸郭にたたきこめ
歌はなにもカラオケで歌うものだけはありません。
会話の言葉も、ひとりごつ言葉も、書き殴る言葉も、私から生まれるものすべてが歌なのです。
私から生まれる歌はひよわであってはいけません。
こけおどしの強さであってもいけません。
嘆息でも諦念でもない、胸の内でうねりを上げる思いを
私は歌わなくてはなりません。
今日の私はひよわな歌を歌っていなかったでしょうか。
吹けば飛ぶような、軽い、弱い歌を。
明日の私は歌えるでしょうか。
熱を帯びた炭火のような、静かで、強い歌を。