書くのは魚を手で掴まえるようなものだ。
頭の中に言いたいことがある。魚影のように黒くほのかにとよぎっていく。
どうにかそれを掴み、文章の上に載せようと試みるが、それはゆらりと身をくゆらせ逃げてしまう。後を追いかけ追いかけかき乱すうちに言いたいことが何だったのかあやふやになってしまう。
偶然、ほんの偶然、魚を掴まえることがある。勇んで文章に載せると、思っていたより弱々しく、か細い言葉にたじろいでしまう。
言いたいことをずばり言い得る言葉。読んだ人をはっと気づかせる言葉。そういった言葉をいつも探している。
書くのは魚を掴まえるようなものだ。
たくましく、豊かな言葉の影を追い求め、弱々しく、頼りない言葉を抱えて帰る。
絵にかいた餅をよだれを垂らして眺めるような営みだ。
今日も書く。目に見える言葉の奥にある、ゆらゆらとゆれる神秘を掴もうとして。