町の小さな美術館に立ち寄った。
花がテーマの企画展が開かれており、地元にゆかりのある画家の作品が展示されていた。
有名であるかどうかと作品が優れているかどうかは必ずしも一致するわけではないとわかっていても、名のある画家を前にすると、どうしても身構えてしまう。
その点、市井の人だと気楽で、ただただ、作品と向き合うことができる気がする。
美術館は無人だった。余計な動きも音もない。遠くから眺め、近くに寄って見つめ、また離れて全体を見渡す。離れて、近づき、離れて、近づき……
何かを考えていたわけではない。ただただ全体を、細部を、構図を、色彩を、タッチを見ていた。見ていると頭が茫とする。ここにいるようで、どこにもいないような感覚になる。その空間にとけていく感覚。
頭の芯が痺れるような、鈍い疲れとともに美術館を後にした。町を歩く。人が行きかう。いたるところで音がする。彼らはこの没入の幸福をまだ味わっていない。そう思うと、つまみ食いしたようないたずらっぽい嬉しさがこみ上げてきて、うさぎは町の上で非常に幸福であった。そして往来と喧騒に彩られた町を歩いていった。