本読むうさぎ

生きるために、考える

傲慢で忘れっぽい私たちに必要なものは何か

私たちは傲慢で忘れっぽいから、折に触れて自らの立ち位置を確かめることが大切だと感じています。そして本は、傲慢で忘れっぽい人間が自らの立ち位置を確かめる一助である、という考え方がここ最近、うさぎの中でしっくりきています。

文は人なり」という言葉があります。文章にはその人の考え方や価値観、生き様といったものが色濃く反映されます。文章はリアルタイムでの発話と違い、表現されるまでに時間と手間がかかります。魚のように泳ぎ回る思考や感情をありのまま伝えるのが発話だとすれば、魚拓をとって保存するのが文章です。だからこそ、使う言葉一つにその人の「らしさ」が表れると言っても過言ではありません。

小林秀雄は読書の楽しみの源泉には「文は人なり」があると言います。文章を読むということは、それを書いた人の考え方や価値観を受けとめ、受け入れるということ。この言葉を深い意味で理解するために、全集を読むことを薦めています。

 

一流と言われる人物は、どんなに色々な事を試み、いろいろな事を考えていたかが解る。彼の代表作などと呼ばれているものが、彼の考えていたどんなに沢山の思想を犠牲にした結果、生れたものであるかが納得出来る。

小林秀雄『読書について』

文章だけでなく、音楽やダンスなど、あらゆる表現活動にも言えることですが、一つ、二つの作品を聞きかじっただけでその人が表現したかったことを捉えるのは不可能です。その人が表現した色々なものを、長い時間をかけ、時に何度も味わうことで、そうすることで、ようやく理解の入り口に立つのです。そして、速さを追い求める現代で軽視されているのは、この時間と手間をかけることです。

タイムパフォーマンスなんて言葉があちこちに飛び交うように、とにかく速いこと、すぐにできる、終わることが重要だと見なされる社会。数秒の動画を矢継ぎ早に視聴する(正確には視聴した気になっている)人が増えました。映画をじっと見るのが苦痛で、倍速で見るなんていう話も聞きます。速さを追求しすぎると、ゆっくり味わうこと、ゆとりを持つことは低く見られるようになります。そうして、物事の表面を撫でるだけで何かを分かった気になって、その実何も分かっちゃいない、そんな社会になってしまった。

ゆっくり、ゆったり、ゆたかに、物事と向き合う。傲慢で忘れっぽい私たちに必要な姿勢だと思います。その一歩を踏み出すために、本を読むことからはじめてみてもいいもではないでしょうか。

 

a.r10.to