本読むうさぎ

生きるために、考える

尋常で、自由なつきあいの道

読書が好きな頃は読むことをひたすらに楽しんでいた。草原をどこまでも走りたくなるような、水平線の向こうまで泳ぎたくなるような衝動に任せて次から次へと読み漁った。

読み終えると痺れたような倦怠感が全身を包んだ。体は現実を向いているのに、心は空想を向いている。2色の絵の具が混ざりあうような心地よさ。

読むことで満たされていた。

 

大人と呼ばれるようになり、読書の幅も増えた。語彙や知識は増えたが、読むことの楽しさを失ったように思う。

 

小林秀雄は本に夢中になれない時期に、以前読んだ本を漫然と読み返したところ、かえって読書の楽しみをはっきり自覚したという。知識欲や好奇心といった余計なものが取り除かれることで、本との「尋常で、自由なつきあいの道」が開けた。

 

夢中になれない、ひたすらに楽しむことができないときは、私との間に余計なものがあるのかもしれない。知識欲や好奇心かもしれないし、見栄やプライドなのかもしれない。余計なものが何なのかを突き止める必要がある。

まだまだ「尋常で、自由なつきあいの道」は見えない。見えないが、あると信じて、ゆっくり、じっくり、本と向き合っていきたい。

a.r10.to