本読むうさぎ

生きるために、考える

「自分の人生を生きる」にはどうすればいいか

はじめに

夏目漱石が「とかくに人の世は住みにくい」と嘆いたのは今から120年近くも前だが、その頃と比べてどれほど住みやすくなっただろうか。

なぜ人の世はこんなに住みにくいのか。どうすれば、自分の人生を生きることができるだろうか。

 

内科・心療内科医が自分の人生を守るために大切なことを書いた『我慢して生きるほど人生は長くない』を足がかりに「自分の人生を生きる」にはどうすればいいかを考えてみたい。

 

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自分で自分を物語る時代

イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは「社会がより良く、より豊かになると、人はやることを失って不幸になる」と主張した。

社会的に解決すべき問題があるとき、人はモチベーションを保ちやすい。戦争や飢餓、病気などの生命の危機があるときは「私がしなければならないこと」がわかりやすく、はっきりしているからだ。

しかし、社会が豊かになり、安全に暮らせることが当たり前になると、モチベーションを保ちづらくなる。生命の危機が少なくなるため、「私がしなければならないこと」の「私が」の部分が弱くなるのだ。

そうなると、自らが生きるモチベーションを自分で見つける必要がある。自分の目で「私がしなければならないこと」を見つけ、自分の手で成し遂げるしかないのだ。本書では、これまでの人生で起こってきた出来事に対して、自分なりの解釈をつけていくことを「自分の物語化」と呼んでいる。1つの物語を読むように、自分の人生を外から眺め、解釈をつけていく。自分で自分を物語る時代となっている。

 

なぜ自分の物語を生きることが難しいのか

私たちは毎日、他者や社会からおびただしい数のメッセージを受け取っている。「〇〇より△△の方がコスパがいい」とか「男(女)は〇〇すべきだ」とか「〇〇するのは常識だ」といった他者の価値観を押しつけられ、自分の価値観を見失ったり、我慢したりすることがある。他者の価値観に従っているうちに自分が我慢していることに気づけなくなってしまう。

他者の価値観を無視するのはよくないが、そのまま受け入れてしまうのもよくない。他者の価値観を尊重しつつ、自分の価値観を守り抜くことが大切である。

 

自分の価値観と向き合うにはどうすればいいか

見失ってしまった自分の価値観を見つけるにはどうすればいいだろうか。また、何が自分にとっての大切なのかわからないときはどうすればいいだろうか。

まず、お腹が空いているでも眠たいでも何でもいい、今感じていることや体の状態に意識を向け、言葉にすることだ。言葉にすることで「ああ、私は今こういうことを感じているのか」と気持ちを自覚することができる。

次に自覚した気持ちを満たしてやる。先ほどの例でいうと、お腹が空いているのなら食べ、眠たいなら寝る。後回しにするのではなく、すぐに。体が満たされると心も満たされる。体が求めていることを素直に受け入れることで緊張した心はほぐれていく。

最後に何もしない時間を持つ。散歩に出たり、湯船に肩まで浸かったりなど、心と体を緩める時間を設ける。毎日でなくていい。考えたり動いたりしない時間を意識的につくるようにする。

以上の3つのうちどれか1つでもいい、普段の生活の中で意識してみると、何に良さを感じ、何を大切に思うのか、自分の価値観が見えてくるようになる。

 

山頂という寄り道

ニュージーランドやオーストラリアの山登りのコースには、メインルートに山頂が含まれていないらしい。

山頂を目指す道はあくまで寄り道の1つであり、目指しても目指さなくてもいいという考え方は、何とも豊かな感じがする。

 

最後に

人はすがりつくべき物語がなければ生きていくことができない。そのため、どんな物語であれ、自分で自分を物語り、自分の物語に納得することが必要だ。他者の価値観に流されそうになったとき、自分の価値観を見失ってしまう。だからこそ、意識的に自分の価値観と向き合い、満たすようにすると、自分の人生を生きられるようになるのではないだろうか。