本読むうさぎ

生きるために、考える

うさぎの本棚『言語の本質』今井むつみ/秋田喜美

私たちは毎日言語を使っている。水や空気のように当たり前に存在するものとして、特に意識を払うことはないだろう。

「言語とは何か」というとおおげさな気もするが、それでもたまにこんな疑問を持つことはあるのではないだろうか。

「赤ちゃんはどうやって言語を覚えるのだろう」

「犬や猫が言語を話さないのはなぜだろう」

 

「言語とは何か」を考えることは、「人間とは何か」を考えることと同じと言ってもいいかもしれない。

『言語の本質』では、認知科学言語学の立場から、なぜヒトだけが言語を持つのか、ヒトは言語をどうやって習得し、発展させてきたのかを紐解いていく。

 

a.r10.to

 

詳細はぜひ読んでほしいが、個人的におもしろいと感じた問題や考えをいくつか紹介する。

 

記号設置問題

認知科学には記号設置問題という、未解決の大きな問題がある。ある記号を別の記号で理解するためには、身体的な経験を持たなければならないという問題だ。

日本語を母語とする人が英語を学習しようとする際、英和(和英)辞書を使って単語の意味を調べるが、それができるのは英語という身体から離れている記号を日本語という身近な記号で置き換えているためだ。これが中国語で書かれた英語の辞書を使うとなると、中国語がわからない人にとっては永遠に英単語の意味にたどり着くことはできない。イチゴを食べたことのない人にイチゴの味についていくら説明しても理解できないも同じことである。

何かを理解することは、自分が知っている形に置き換えることだ。

記号設置問題について考えることで言語と身体の関わりを探り、そこからさらに言語の起源と進化、そして子どもの言語発達まで考察することができる。

 

音の類似性

日本語の「かたい」という言葉はいかにも硬く、「やわらかい」という言葉はいかにも柔らかい感じがする。「かたい」にはk、tという硬い響きの音が、「やわらかい」にはy、w、rという柔らかい響きの音が含まれているためである。おもしろいのは、日本語を知らない人に「どちらがsoftでどちらがhardか」と質問すると多くの人が正解するという。実は音には角ばったり丸っこかったりという物理的性質があり、世界で共通している。

曲線的な図形と直線的な図形の二つがあり、どちらの図形が「マルマ」でどちらが「タケテ」かを選ぶという実験があった。すると多くの言語の多くの話者は、曲線的な図形を「マルマ」、直線的な図形を「タケテ」と判断したという。

日本語にはオノマトペがたくさんあるが、日本語を全く知らない人でもある程度意味を推察することができる。

 

 

身近にあるからこそ見過ごしがちな言語。しかしそこには思いもよらないおもしろさが隠れている。新しい発見と出会えるから読書は止められない。