夢を見た。
川沿いの植物園に一人で出かけている。
入口の脇から川に降りる通路がつづら折りに伸びており、そこを下ると右から左に向かって流れる渓流が見えてくる。
川辺は水気をたっぷり含み、石や植物の表面がしっとりと光っている。
しばらく渓流を眺め、周囲を見ようと首をぐるりと回すと犬がいた。
ダックスフンドだろうか。薄く引き伸ばしたキャラメル色の毛は水気を吸って全身が濡れそぼっている。
目の周りが黒ずんでいて、目と毛の境目がわからなくなっているのがどこか不気味だ。
犬は怯えるでもなく、じっとこちらを見つめている。
ついつい、目が離せなくなった。
しばらく見つめ合っていたが、蝶が飛んでいるのを見つけると威勢よく吠える。
威嚇ではなく、おもしろいおもちゃを見つけたときのように、遊びたくてたまらないというように。何度も吠える。
口笛で呼びかけると、おどおどしながらもこちらに近づいてきた。
来た道を戻る間も犬はついてきた。
途中振り返ると、一定の間隔を空けてついてきているのが見える。
そのうちに向こうも慣れてきたのか、並んで歩いたかと思えばさっさと先へ進み、逆についてきているのか確かめるように振り返ってきた。
植物園についたところで、さてこの犬をどうしたものかと考え始めた。
植物園に受け渡すか、保健所に連絡するか、このまま飼うか。
迷っていると職員らしき男がやってきてどうしたのかと声をかけられた。
どうしたものかと二人で頭を抱えている足元で犬は楽しそうに舌を出して見上げている。
自分がどう決断するのかが怖くなって目が覚めた。
あのまま夢が続いていたら、犬はどうなっていただろう。
職員の言うことに従って、自分がどうしたいかを言わずじまいになってしまったのではないか。
夢の中では気づかなかったが、濡れそぼった犬は、亡くなった愛犬に似ていた。
吠える声も、見上げる角度も、嬉しそうに舌を出す表情も愛犬のそれだった。
もしかすると、愛犬が会いに来ていたのではないか。
濡れそぼった野良犬の姿でやって来て、どんな反応をするのか見ていたのではないか。
そうであったら嬉しいような、怖いような気がする。
起きてからしばらくは夢を思い出し、愛犬の写真を眺めた。
3月の始まりに一人涙を流して。