図書館で本を読んでいると、赤ちゃんの鳴き声が響いた。
それほど広くない図書館にぽつりぽつり人の姿が見える。
母親らしい人があやす声が聞こえるが、なかなか泣き止まない。
赤ちゃんの鳴き声って、なぜあんなに身を切るような痛々しさがあるのだろう。
泣き続ける赤ちゃんの声と、周りに気を遣うような母親の声。
正直、本を読みにきている身からすると気が散ってしまう。
おそらく、他の利用者も多少似た思いをもっていただろう。
世界の終わりを告げるようなけたたましい声と、小さく縮こまっている声。
母親も困っただろう。泣き止まない赤ちゃんをどうすればいいか、周りの人がどう思っているか、苦行の時間だったろう。
誰も文句は言わない。母親も赤ちゃんもたいへんな思いをしていることはわかっているから。
そのうちスタッフと思しき声が近づき、しばらくすると声は遠ざかっていった。
別のスペースに移動したのだろう。
館内はさっきまでの鳴き声が残っているように、示し合わせたように押し黙っていた。
母親はどんな思いであやしただろう。
周囲はどんな思いで黙っていただろう。