本読むうさぎ

人間と名乗るにはまだ未熟なうさぎ。考えるとは生きること。生きるために書いています。

コーヒーを飲んで友人を見送る

木陰で汗が引くのを待っていたら、音もなく風が通りすぎた。

秋の温度だった。

 

遠方から友人が帰ってきた。

昼食後のコーヒーを囲みながら学生時代の思い出、現在の状況、将来の展望を語り合った。

ひとしきり語り終えるとコーヒーをすすり、窓外を眺めた。

読書の話になり、互いに持ち歩いてる本を見せあった。

うさぎは『百年の孤独』の、登場人物が多いうえに名前が似ているので誰のことだかわからなくなってしまう苦悩を、友人は『ビタミンF』に心温められ、励まされる愉悦を語った。

彼はまたしばらく遠方に出るとのことだったので、平穏無事を祈って別れた。

 

a.r10.to

 

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人生には折々でターニングポイントが訪れる。

その多くは後で振り返って「そういえば、あれがあったから今につながっている」と気づくものだが、まれに「今まさに、人生の方向性を決めている」と感じることがある。

彼にとって、この数カ月は人生の分岐点に直面する時間だったらしい。

 

うさぎはどうだっただろう。

人生の分岐点に立つ感覚を味わったことがあっただろうか。

今うさぎが歩いている人生の多くが自らの意志で選んだものではない。

「なんとなく」「いつのまにか」そうなったものばかりだ。

そんな人生を悔やむわけではないし、これから先も同じように歩いていくだろう。

 

人生の分岐点に立つ感覚をもったことのある人は幸福だろう。

選択の結果が望むものでなかったとしても、自分の人生に正面から向き合った、ということ自体がかけがえのないものだと思う。

 

彼は遠くに行く。

彼の人生と向き合いながら。

どこまで流れていくのか、自身の目で確かめながら。

そんな彼の平穏を願わずにいられない。

 

彼と別れた後も陽は容赦なくうさぎを照らし、気力を奪っていく。

木陰で汗が引くのを待っていたら、音もなく風が通りすぎた。

秋の温度だった。

季節は着々と移っている。