本読むうさぎ

人間と名乗るにはまだ未熟なうさぎ。考えるとは生きること。生きるために書いています。

愛されたいし愛したい『草の花』

今週のお題「好きな小説」

 

人はいつだって愛されたいし愛したい。

愛のカタチは時代や価値観によって変わるけれども、愛されたい、愛したい欲求に苦しむのは人の常なのだろう。

愛されたいけど愛されない、愛したいけど愛しきれないから孤独に陥る。ときには命を落とす。誇張でも比喩でもなく、愛のために人は死ぬ。

「愛」と「孤独」はコインの裏表のように、本質的には同じだけど見せる姿が異なっているモノなのかもしれない。

 

「愛」と「孤独」の小説でまず思い浮かべるのが福永武彦の『花の草』だ。

自殺同然に死んだ男が遺した二冊のノートから、愛に破れ、孤独に生きた彼の半生を辿っていく。

 

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。(新潮社より)

 

 

タイトルの『草の花』だが、冒頭にペトロ前書の「人はみな草のごとく、その光栄はみな草の花の如し。」が引用されており、人とは何か、人の営みとは何かを考えさせられる。

 

本棚の最も手に取りやすいところに置いていて、時折読み返している。

 

 

a.r10.to