本読むうさぎ

生きるために、考える

うさぎの本棚 『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ

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自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる――。(中央公論新社より)

九州の田舎町を舞台に、傷を抱えた者同士の女性と少年の交流を描いた作品です。

 

タイトルにある「52ヘルツのクジラ」とは、非常に珍しい高周波数で鳴く世界で唯一のクジラのこと。通常、クジラは10~39ヘルツの周波数で鳴き、仲間とコミュニケーションをとります。

しかしある一頭だけは52ヘルツという高音で鳴くため、その声は他のクジラに届きません。広い広い海で誰にも届かない声を上げ続けるクジラは「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれ、今なお世界のどこかを泳いでいるとされています。

 

ニュースを見ていると信じられないような事件が毎日のように流れます。もしかしたら事件の加害者や被害者も、52ヘルツで鳴いていたのかもしれません。私たちの周りには今この瞬間も傷ついている人がいます。それは隣の人かもしれないし、自分かもしれない。そこにいるのに、誰にも気づかれない。声を上げても誰にも届かない。「52ヘルツのクジラ」になる可能性は誰もが持っています。

 

自分はすぐ隣のことにさえも気づけていない、ということに気づかせてくれる一冊です。