長年連れ添ってきた本に身に覚えのないシワができていた。
シワを指先で撫でてみた。水でもこぼしたのだろうか、よれて固くなっていた。よれた紙は年輪のような、独特の風格を帯びる。
忘れてしまった記憶。本だけが覚えている記憶。
ともに月日を過ごすということは、石を重ねるようなものなのかもしれない。
毎日、一つずつ石を積み重ねる。倒れてはまた一から積み直す。積んでは倒し、倒しては積む。残らない記憶を積み重ねる。
私が忘れてしまった記憶を本は覚えている。これからもシワは増えるだろう。
そうして私は、本とともに年を重ねる。