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生きるために、考える

幸福とは何か 「暗夜行路」から考える

Amazon暗夜行路 志賀直哉

※ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

 

 

はじめに

 あなたは今、充実した毎日を過ごしていますか?何となくむなしい、張りのない気持ちを感じるときは誰にでもあると思います。そのようなとき、少し立ち止まって幸福とは何かを考えてみませんか?

 

 

あらすじ

 主人公の時任謙作は周りから愛されている実感がもてず、芸妓に恋をしたり、放蕩溺れたりするなど、自堕落な生活を送ります。身も心も傷つきながらも、幸福になろうと懸命に生きる姿を描いた作品です。

 

 

内容

幸福について、「罪」という視点から考えてみました。

1 3人の罪

 「暗夜行路」には、謙作の母、妻の直子、竹さんの妻と、不貞という罪を犯した3人の女性が出てきます。それぞれどのような罪を犯したのでしょうか。

 

1-1 謙作の母

 祖父と関係を持ち、その結果謙作が生まれます。ほかの家族もこのことは知っていますが、母に冷たく当たることはありませんでした。一方謙作に対しては、祖父のもとに出すなど冷たい態度をとります。謙作が幼いうちに亡くなりますが、事実を彼に伝えることはありませんでした。

 

2-2 妻の直子

 京都に滞在していた謙作は直子と出会い、結婚します。しかし、彼が出かけているときに直子は従兄と関係をもってしまう。赦すと言いながら癇癪を起す謙作に直子は苛まれることになるのでした。

 

3-3 竹さんの妻

 養生のため旅をしていた謙作は、鳥取県の大山を訪れ、そこで竹さんという職人と出会います。彼には妻がいるのですが、たびたび他の男性と関係をもっており、最後には痴情のもつれから命を落とします。

 

 自身の罪を謙作に告げることなく、周囲から寛大な扱いを受けた母、たった一度の罪に苦しみ続ける直子、罪を犯し続け、最後には命を落としてしまう竹さんの妻。自身の出生について知った謙作はひどい神経衰弱に陥ります。その時に「心の貧乏人、心で貧乏することほど惨めなことはない」と心の在り方が幸福につながると考えるようになります。



 

2 罪の懺悔

 罪との向き合い方について、次は2人の女性を見ていきます。

2-1 蝮のお政

 自身の罪を一代記として語り回り、生活の糧にする蝮のお政。懺悔をして回り、生活費を稼ぐ彼女は悪事を働いていたころよりも張りのある心をなくしていると謙作は考えます。

 

2-2 栄花(桃奴)

 謙作と同じくらいの年齢の芸者である栄花(幼名は桃奴)。客との間にできた子どもを死なせてしまった彼女は悪名高い芸者として周りから忌み嫌われます。過去の罪が現在の生活と切り離されず、今もなお苦しんでいるであろう栄花を「斃れて後やむ」(死ぬまで努力を続けて屈しない)と評します。

 

 懺悔とは一回こっきりのもので、した後も決して幸福になるわけではない。懺悔をして赦された気になるくらいなら、罪を背負い続け、罪と共に生きている方が心の状態としては上等ではないか。女性たちの罪や、自堕落な生活を顧みた謙作は罪を背負っている状態が一種の幸福であると考え、自分を慰めるのでした。

 

 

まとめ

 幸福とは心の在り様であり、罪を犯した後も、罪を背負って生きることが幸福なのだと思いました。暗い夜の路を行くように、苦しみの中に幸福を見出していくことが、生きるということなのかもしれません。