電気ケトルのスイッチを入れてマグカップを取り出す。縁にかけた豆の乾いた匂いが鼻先をくすぐる。豆の空気が鼻腔を通って肺に満ちていく。長く深いため息とともに肺に溜まっているものを出し切ると体が生まれ変わったように感じる。
空気の入れ替えを繰り返しているところに電気ケトルが湯が沸いたのを知らせる。豆が湿る程度を注ぎしばらく待つ。湯が豆を起こしながら下っていき、カップの底に暗い湖を作り始める。湯が豆を通り切るまで注ぎ足さない。じっくり時間をかけて溜める。充分な量を確保したところでバッグを引き上げる。暗い湖面はぬらぬらと光を吸い、苦さを含んだ湯気がほのかに立ち上る。
コーヒー受けの菓子を探すが昨日切らしたことに気づいたため、今日はコーヒーだけをいただくとする。
一日のささやかな一コマ。
コーヒーに合う一冊。
コーヒーに合う菓子。甘い。