本読むうさぎ

生きるために、考える

腐れ外道かド阿呆か

今週のお題「最近おもしろかった本」

 

大酒飲みで風邪の神から嫌われていて、緋鯉を背負って古本市を練り歩く「黒髪の乙女」と、彼女に恋して外堀を埋めに埋めるが一向に本丸へ挑まない「私」の数奇な恋物語を描いた森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女

 

独特の世界観と語り口に引き込まれてページをめくる手が止まりませんでした。

 

特に印象に残ったのが「黒髪の乙女」の姉が愛の鉄拳「お友達パンチ」を彼女に授けるくだり。姉は世の恐ろしさをこう語ります。

 

  この広い世の中、聖人君子などはほんの一握り、残るは腐れ外道かド阿呆か、そうでなければ腐れ外道でありかつド阿呆です。

 

歯に着せた衣がずたずたに引き裂かれるど真ん中ストレートの忠告。「腐れ外道かド阿呆か、そうでなければ腐れ外道でありかつド阿呆」とは、よくもまあこんな悪口が思いつくものです。

 

 

もう一つ。「黒髪の乙女」に恋するだめだめ大学生の「私」が恋煩いをこじらせたときのセリフ。

 

  「ちくしょう、つまらねーつまらねー」と嘆いた。「ああ、どうしよう」とも呟いた。そこへすぐに「どうしようもねえよな」と自分でかぶせる

 

なんときれいな三段論法。学生時代、多くの人が似た道筋を通っていろんなことに諦めつけたのではないでしょうか。

 

姉直伝の「お友達パンチ」を携えて、京都で巻き起こる珍妙な事件を乗り越える「黒髪の乙女」と、彼女を追いかけてひたすら大変な目に遭う「私」。個性的なキャラクターたちが繰り広げるマカロンのようにふわふわで甘いドラマをぜひ読んでみてください。

 

解説を『3月のライオン』の羽海野チカさんが描かれているのでそちらもお楽しみに。