本読むうさぎ

生きるために、考える

あの夜の会話 草野心平

秋の夜の会話  草野心平

 

さむいね。

ああさむいね。

虫がないてるね。

ああ虫がないてるね。

もうすぐ土の中だね。

土の中はいやだね。

痩せたね。

君もずゐぶん痩せたね。

どこがこんなに切ないんだらうね。

腹だらうかね。

腹とつたら死ぬだらうね。

死にたかあないね。

さむいね。

ああ虫がないてるね。

 

 

冬が近づくある秋の夜の会話。

二人(二匹)が交互に話している。

淡々と死にたくないと語る彼らに静かに死が近寄っている。

 

この二人(二匹)は、冬を越せるだろうか。

どちらも死んだら、幸せなのかもしれない。

悲しむ者がいないからだ。

もしどちらかが生き残ったとしたら、生き残った者は幸せだろうか。

語り合う相手がいない秋の夜をこれから一人で過ごさなくてはならない。

 

 

俵万智さんの短歌に次のものがある。

 「寒いね」と 話しかければ 「寒いね」と 答える人の いるあたたかさ

                             『サラダ記念日』より

 

語り合う相手がいるというのはそれだけで幸せなことなのかもしれない。

つらい状況も、二人でいるなら心強い。

では、一人になったら、どうなるのだろう。

はじめから一人と、失って独りになるのは違う。

悲しみを胸に抱き、思い出に浸りながらつらい現実と向き合わなければならない。

 

今年も寒さが厳しくなり、冬がもうそこまで迫っている。

彼らは、どんな思いで冬を迎えるのだろう。