本読むうさぎ

生きるために、考える

牡丹の芽

最近読んだ落語でいいなと思う言葉と出会った。

 

噺家とタクシーの運転手が話している。運転手は80歳くらいで、往年の噺家について話しているうちに、運転手が昔乗せた噺家のある若い弟子の話になる。修行の身で金を持ち合わせておらず、運賃を払えないからお代替わりに落語を1つ披露することに。それがきっかけで落語ファンになったという運転手は若い弟子が何をしているのかを心配して話を終える。その若い弟子は今載せている噺家である。運転手はそのことに気づかない。目的地に着き、去っていくタクシーに深々と頭を下げる噺家であった。

この噺の締め括りである次の歌が心に残っている。

 

 やがて喝采を覚悟して牡丹の芽

 

いつか来る拍手喝采を覚悟して牡丹の芽が芽生えている。「牡丹の芽」が春の季語だそうだ。寒さに強く、冬のうちから地中で大きくなり、春になると朱く太い芽をのぞかせる。喝采が来たらいいなあという願望でなく、来るものと覚悟しているところに噺家の決意というか、自信が表れているようだ。

 

覚悟も自信もないが、私もいつか、何かを為すことができるのだろうか。春を待つ牡丹でありたい。

 

 

MONKEY vol. 28 特集:老いの一ダース

MONKEY vol. 28 特集:老いの一ダース

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