本読むうさぎ

生きるために、考える

軸となる物語

 自分の考え方や生き方の軸となる物語はありますか?

 中高生の頃、毎日が何となく過ぎるような、自分だけ置いて世界が回っているような感覚が常にありました。無味乾燥の世界。生きている実感を持てていなかったのだと思います。

 そんなときに出会ったのが『桜の樹の下には』。作者は『檸檬』で有名な梶井基次郎。病気がちであったという彼が描く作品には、どこか破滅に向かうような雰囲気が漂っています。

 『桜の樹の下には』では世のあらゆる美しさの裏には惨劇が潜んでいることが述べられています。惨劇の上に成り立っているから、美しさが生まれるというのです。美と醜、生と死とは対極に位置するものではなく、互いを前提に成り立っているものである。片方なくしてもう一方は成り立たない。こう考えると、頭にかかっていた靄が晴れ、生きている実感が湧いて来たのです!

 

 自分の考え方や生き方の軸となる物語と出会ったとき、世界が開かれたような気になったり、自分はこのままでいいんだと強い安心を感じたりすることがあります。軸となる物語はお先真っ暗な人生を歩むうえで丈夫な足掛かりとなります。足掛かりを増やしながら、人は先の見えない人生を今日も生きるのかもしれません。