割烹料理屋でバイトしていたことがある。完全予約制で6人がけのカウンター席しかない小さな店だった。薄暗い客席から見る調理場は眩いくらいで、切ったり、焼いたり、盛りつけたりするところを隈なく眺めることができた。目の前で料理を作り、食材やおいしい食べ方を解説するというスタイルで、客足が途絶える日はなかった。
うさぎの仕事は給仕と皿洗い、客の見送りと閉店後の掃除だった。料理に触れる機会はまったくない。
割烹料理なのに、店長のことはマスターと呼んでいた。自分のスタイルを貫く人で、口は厳しいが仕事への真摯な姿勢を尊敬していた。
そんなマスターから料理や仕事のことを教えてもらったが、中でもおいしい米のとぎ方は今でも実践している。
ボウルなり炊飯器の内釜なりに米と水を入れる
両手で水を掬うように米を持ち、軽くこすり合わせるように研ぐ。力はいらない
マッサージするように優しく手全体で米をもんでやる
水を張り替え、同じように研ぐ。白さは残っていて構わない
手全体でもむことで米を傷つけず、おいしさを保つことができるのだ。炊くときもたっぷりと吸水させ、炊きあがったらしっかり蒸らしてやる。これだけで米の味が格段に上がる。
マスターにお世話になってから10年近く経つが、いまだにこの教えを遵守している。米を研ぐことと自らを磨くことは同じなのかもしれない。