本読むうさぎ

生きるために、考える

秋について

 風にふと顔を上げた。カーテンを揺らして秋が入ってきた。

 暑い暑いと言っていたのがうそのように、空気にしんとした張りがでてきた。

 

 「どの季節が一番好きか」という質問は、誰もが一度は受けたことがあるだろう。断然秋を推す。忙しく生き急いだ後の、ようやく人心地着ける時間。

 

 清少納言は秋は夕暮れと説いた。逢魔が時とも言う。この世とあの世の境があいまいになって、魔に逢う時というわけだ。人間を超えた存在を感じる時期なのかもしれない。

 

 薄くたなびく雲を境に、赤の空と青の空が一つの額縁に収められる。ほうと息をつき、束の間見入る。写真を撮る者もいるだろう。ほんの数十秒今の自分を忘れ、空に心を奪われる。このひと時にこそ詩情が宿っているのではないか。言葉で表せない。言葉で表そうとも思わない。ただ見る。何も考えないが、何かを生み出している。そんな時間。

 

 空に心を奪われるとき、何と出会うのだろう。魔かもしれないし、詩かもしれない。人生を見る者もいるかもしれない。今日も空を見る。